ヨーロッパの伝承によれば、幸運の元に産まれた赤子は、銀のスプーンを咥えて産まれてくると言われている。
当時アラサー真っただ中の私を襲っていたのは友人知人の婚姻ラッシュ、ではなかった。
それからアラフィフになった私はやっぱり婚姻とは無縁である。
別に好きで無縁な訳ではない。
(2005年4月20日初稿)
我、30代に突入せり
幼馴染たちより遠く離れて
景気よく始めたいのはいいが、この年、私はとうとう30代の大台に乗ってしまっていた。
田舎の幼馴染たちは、20代のうちに結婚してもう子供も設けているというのに、なんという違いだ。
結婚も子供も、それどころか金さえあれば多分仕事すら要らないのだが、着実に30代という大台にハードランディングしていくのを指を咥えて眺めているのはあんまり楽しいものではない。
田舎の友人と比べると、大学のボンクラ同期たちはやはり一味違う。
昨年結婚したのが一組だけ。
後は皆独身。
素晴らしい!さすが我が友である。
とはいえ、50近くになっても半数が独身でいるとは当時思いもしなかったが。
慶事と対なすボンクラ2人
だが、いかにダメぞろいとはいえ真っ当な者もいる訳で、この4月30日に人前式を挙げるカップルができたという話を、同じくボンクラ仲間で実家に帰省中の「山男(以下ヤマオ)」が聞き込んできた。
ヤマオは友人代表の挨拶をするよう頼まれたらしい。
私は心の中で
「こいつに祝福されても説得力はないなあ」
などと考えていた。
こいつはこの3年間というもの、青年海外協力隊に参加してボリビアくんだりまで出張って働いたあげく交通事故にまきこまれ、椎間板ヘルニアという持病をみやげに帰国してきたばかりなのだ。
しかも、帰国してからあっせんしてもらった就職試験に全滅し、
「キューバに留学して、有機農法の専門的勉強をする」
と神も悪魔も予想もつかないあさってへの宣言をしてすでに準備を始めつつある始末。
先日ヤマオの家に電話したところ、ご母堂が出られていかに親としては不安でならないかと身を絞るように訴えられた。
私自身も不安しか感じないのだが
「いやいや、ヤマオ君はしっかりしていますよ、大丈夫ですって」
いつの間にかラジオ人生相談をひらく事に。
「しかし・・お前、キューバに出発するのいつよ」
「ん~?4月の18日」
「どうやって4月30日にスピーチするつもりだ?」
「・・・!」
天啓ひらめく
役に立たぬ事山男のごとし
私は東京まで往復するほど余裕がないので不参加、ヤマオも当然(本当に気づかなかったらしい)不参加。
「こうなったら、連名で新婚夫婦にプレゼントを贈るか」
と、ボンクラ2人が生まれてくる際に落とした知恵と常識とをかき集めて悩みに悩んだ。
「そうだ!」
「なに~?」ヤマオ
うん、殺したいこいつ。
「新婚さんといえば、あれしかないよ!『YES/NOまくら』だよ! で、中身は高級テンピュール素材! 枕カバーは私が縫ってやるよ!」
災害級の脱線
ここで、『YES/NOまくら』について説明しよう。
「新婚さんいらっしゃい」という名前の番組を聞いた事はあるだろうか。
関西で桂文枝師匠の司会で1971…うぉっ!今の私より年配、なんと51年も続いている長寿番組「新婚さんいらっしゃい」に登場する景品である。
司会はさすがに藤井隆に交代しているが枕の方は現役で何なら楽天市場でも手に入る。
どういうものかというと、枕の表に「YES」、裏に「NO」と大文字がプリントされた枕で、2個1セットである。
(下画像参照)
この「YES/NO」は何に使うのか?
夫婦の夜のお勤めについて、今晩は「YES/NO」という風に枕で示すためのものなのだ。
何と奥ゆかしいシステム!新婚家庭の必需品!
と、ひとりヒートアップしていた私に、ヤマオが水を差す。
「嫁さんは、カタギの人やからやめといたほうが・・・」
確かに「旦那の悪い友達」として新婦の記憶に残るのはさすがに止めたほうが良いような気がする。
銀のスプーン
真面目にやれば早いのに
良案を出さないヤマオにじれた私は、
「じゃあ、銀のスプーンというのはどうだ? 縁起ものだし気がきいてると思うが」
と半ば押し切るように決めてしまった。
後日、幹事を務める友人に電話し、私とヤマオは不参加で、そのかわり贈り物をさせてもらう旨を伝えた。
ついでに「銀のスプーン」にまつわる伝承を知っているかと尋ねてみたが「なに、知らん」の一言で切り捨てられ、私は電話口で「欧州の縁起物にまつわる伝承について」一席ぶたねばならなかった。
4月20日現在、ヤマオはとっくに日本にいない。
品物選びから『支払いまで』私がやるのだ。
いっそのこと、ヤマオの単独名義で「YES/NO」枕でも送りつけてやろうかなどと一瞬不穏な発想が頭を横切る。
銀のスプーンにこもるもの
銀のスプーンにまつわる伝承とはこんなものである。
幸運の星の元に産まれた赤ん坊は銀のスプーンをくわえてうまれてくると言われている。
以上、それだけ。シンプルにそれだけである。
それくらい人間は自分ではどうにもならない運不運という要素に振り回され続けてきた。
「この人って、ひょっとして銀のスプーンでも咥えて産まれたんじゃなかろか」と思いさえするほど伸びやかに生きている人を、当時の私は何人も知っている・・・つもりだった。
反対に
「どこかでスプーンを無くした」とでも言うしかない程、色々な所でつまづき、人生を必死に生きている人もたくさん知っている・・・つもりだった。
この時から20年近くが経ち、前者がどうしようもない「巡り合わせの悪さ」に苦しんでいたり、後者がひとまずではあるが安寧を手に入れるのを見てきた。
もちろんまだ何も得られていない者もいる。
別にスプーンを咥えて産まれてきたような祝福された人なんかはおらず、皆その時その時を必死になっているだけだった。
結婚して家庭を持つというのがどういうことなのかは当時の私にはよくわからなかった。
だけど、そう決断するには勇気や互いの信頼やその頃持ち合わせた色々なものをふりしぼったに違いない。
せめて幸運に恵まれるよう、その頃の私は祈る。
銀のスプーンは、祈りと祝福が形をとったものだ。
私の思い
だが、私の中には後悔が残る。
「YES/NO」枕のプレゼントはそんなに駄目なのか?
コメントをもらえるとうれしいです
コメント一覧 (2件)
まかデス!
YES NO枕! 爆
めちゃくちゃ懐かしいデス!!
しかも、何の疑問も無く番組観ていましたが、そういう用途で使うんですねΣ(゚ω゚)
ヤマオさんも強く生きれそうでステキです!
私なら、自分のちょっと大切な用事が発生してしまっても、先の約束に縛られてしまいそうです(^^;
だから生きにくいんでしょうね。汗
YES NO枕、売ってるのもびっくりで朝から大笑いしました!!( ´∀`)
まかさんおはようございます!
案外YES/NO枕は有名なのに意味までは知られていないんですよね。
最初にこの日記を公開した時も「知らんかった」という人が多かったです(;^_^A
ヤマオは結局、メキシコ専門の商社というか輸出入業に就き結婚もしていると聞いています
>生きにくいんでしょうね
難しい所ですね
生きにくい所は皆違い、共有する事は難しいです。代わってもらう事もあげる事もできないし。
>売ってる
アフィの練習に調べてみて私もびっくりしました(^▽^)
いつもコメントありがとうございます!